平成11年8月18日

特定非営利活動法人
中国・四国インターネット協議会について

特定非営利活動法人 中国・四国インターネット協議会
設立準備委員会

1 特定非営利活動法人設立の趣旨

 ここ数年における利用の急激な拡大により、情報や知識の共有やコミュニケーションの手段として、インターネットは人類社会における新たな情報通信基盤を形成しつつあります。

 1993年3月に設立され広島を中心に活動を展開してきた、学術系地域インターネット運営組織である任意団体中国・四国インターネット協議会(CSI)は、主として大学や研究機関を対象として、学術・研究・教育及びその支援を目的としたコンピュータネットワーク利用のためのインターネット接続を提供するかたわら、インターネットの技術および利用に関する啓発・普及、インターネット接続技術および利用技術に関する研究・開発およびその支援や学校教育へのインターネット利用の支援など、当地域におけるネットワークコミュニティの健全な発展への努力を通じて地域社会へ貢献してきました。

 このたび、CSIはこれまでの諸活動をより一層強化・充実するために、特定非営利活動法人として新たなスタートを切ることにいたしました。CSIでは、学術研究機関や自治体等の非営利組織を対象としたインターネット接続サービスに加え、新たに当地域における情報流通の円滑化・効率化を図るインターネット相互接続サービスを提供いたします。また、従来行ってきました研究・開発、啓発・普及活動に加え、社会教育や他のNPOの支援など活動をさらに拡大し、当地域における情報通信基盤の一層の発展に貢献することをめざしております。

2 協議会の主な事業

2.1 インターネット接続事業

 学術・研究・教育・行政など非営利活動を目的とする機関や団体に対し安定したインターネット接続を提供します。CSIには、過去7年間にわたる最大50余組織の専用線接続による安定運用の実績があります。これまではネットワーク接続拠点(NOC)を3つの大学に分散して置いていましたが、今後は24時間365日ノンストップ運用をめざし無停電装置を設備した建物内(ハウジングスペース)へ接続拠点(PoP)を設置し、ネットワーク接続を集約します(図1および図2参照)。さらに、これまで接続組織からNOCまでの回線契約を各接続組織が行っていましたが、今後は接続障害発生時の原因究明を迅速に行うことなどのため、各接続組織からPoPまでの回線契約をCSIが一括して行います。これまでは接続組織がインターネット接続するために、CSIおよび回線業者との契約がそれぞれ必要でしたが、今後はCSIとの契約のみでよく、事務手続きの簡素化につながります。

図1

図2

 また、新たな事業として当地域におけるインターネットの相互接続(地域IX)を実現します。CSIには、過去5年にわたる2つの学術系ネットワーク(WIDEおよびSINET)との本格的なマルチホーム運用の実績があり、インターネット相互接続に必要な基礎を築いてまいりました。地域IXの実現およびその発展は、地方分権の実現にも例えることができ、インターネットの世界を大きく変えることになります。CSIは日本で初めてNPO法人による地域IX実現をめざします。中立・公平な立場で相互接続機能を提供することにより、当地域のインターネット利用をさらに促進します。

2.2 研究研修事業

 これまでも著名な講師を招いた講演会、最先端技術のシンポジウムや講習会を多数開催してきました。例えば、日本インターネット技術計画委員会(JEPG/IP)が主催するインターネット技術者の全国会議IP Meeting '96(1996年12月2〜4日、広島国際会議場)を共催しました。また、小中高校でのインターネット利活用を促進する研究会を発足し、教育現場での試行的実践を支援し、多くの成果を上げてきております。例えば、文部省と通産省が推進した100校プロジェクト(1994〜1996年)、新100校プロジェクト(1997〜1998年)において中国・四国地域の11校のインターネット接続を支援しました。さらに、ネットdeがんすプロジェクト(1998年)をCSIが中心となって実施し、1999年6月12日にはその成果発表会を開催しました。今後は活動をより一層充実させ、コンピュータネットワークの技術及び利用に関する普及啓発を図ります。

 一方、CSIが発足した当時からインターネットに関連する最先端技術の研究開発を進めるとともに、その応用についてシンポジウムなど様々な機会を捉えて広く紹介してきました。1995年8月6日には、インターネット上のマルチキャストと呼ばれる放送技術を使用し、広島平和公園で開催された平和記念式典の模様を、動画像、5ヶ国語音声(英語、スペイン語、ドイツ語、フランス語、ポーランド語)、文字(英語)にて全世界向けにリアルタイムで発信しました。これは、当時としては高い技術を必要とする極めて画期的な試みでした。今後、コンピュータネットワークの接続技術及び利用技術に関する研究・開発をより一層推進します。広島県が推進する情報トライアングル計画や郵政省が推進する列島縦断ギガビットネットワーク等へ参加し、共同研究を通して、次世代インターネットプロトコル(通信規約)の研究開発等を進める予定です。

3 協議会の活動意義

3.1 地方におけるインターネット接続

 インターネット接続は、もはや商業基盤に乗った企業活動であるとの見方もあります。確かに、商用インターネットサービスプロバイダ(商用ISP)のサービスエリアは全国各地に拡大し、単にインターネットへ接続するというレベルでは地域的な差異は小さくなったようにも見えます。しかし、日本ではわずか5年前に開始された商用インターネット接続事業は、その急成長と淘汰の過程で品質よりもコストを重視する傾向が強く、特に事業者間の相互接続については対応が後手に回ってきました。そのため、事業者間相互接続は東京一極集中となり、接続事業者が異なる場合、同一地域の組織間通信がすべて東京経由となっています(図3参照)。図3(a)に示す現状のままでは以下のような問題を起こします。

図3

(1) 通信速度の低下
広島・東京間の通信より、接続事業者が互いに異なる広島・広島間通信の方が大幅に遅くなる。これは、同一料金で得られる接続性を比較すると、地域による差は極めて大きいことをも意味する。
(2) 大規模災害
東京周辺で大規模災害が発生した場合、インターネット相互接続機能は日本全体で麻痺することが予想されている。通信事業者が提供する物理回線自体は2重化等の対策により、ある程度大規模災害に対応しているが、インターネット相互接続の機能は大規模災害にまったく対応していない。
これらはいずれも一般には気づかれにくいもので、今はあまり大きな問題となっていませんが、早急に解決しなければなりません。CSIがこれから始めようとしているPoPや地域IXの設置および運用は上記問題点を解決する試みであり、当地域にとっては極めて重要な意味を持っています。また、CSIはシンポジウムや講習会を通してこれら問題点を当地域のできるだけ多くの方々に理解して頂くよう務めます。

3.2 普及啓発および研究開発

 文部省は2001年までにすべての学校をインターネット接続する方針で、現在準備が進められていますが、ハード面のみ急速に整備したのでは効果的な利活用ができないばかりか、大きなトラブルを起しかねません。CSIはこれまで小中高校については、100校プロジェクトでのインターネット接続支援と同時に学校教員を中心とした研究会の支援を行ってきました。さらに、その成果を生かしたCSI独自のネットdeがんすプロジェクトを実施し、大きな成果を上げており、全国的にも注目されています。これらの経験を踏まえ、今後CSIでは小中高校へのインターネットの円滑な導入を目指し、様々な試みを行う予定です。

 インターネットの接続技術開発は日進月歩で進められており、特に米国では超高速通信回線と新しい通信プロトコル(通信規約)を使った次世代インターネット(NGI)計画が1997年頃から政府主導で推進されています。日本でも1999年より郵政省が中心となって列島縦断研究開発用ギガビットネットワークが開始されるなど、次世代のインターネット技術の研究開発が進められています。CSIではギガビットネットワークの共同研究に参加し、最先端技術の研究を進めています。また、広島県が推進する情報トライアングルを活用し、次世代インターネット実験等を実施するなど、地域における新しい情報通信基盤に関連する研究開発を積極的に行う予定です。

3.3 NPOによる活動の意義

 インターネットは情報通信のインフラであり、道路や水道と同様、現在すでに大学や企業等の必需品となっていますが、近い将来、個人の生活のためにもなくてはならないものとなるでしょう。電話やFAXは受益者の概念がはっきりしているサービスで、バスやタクシーに乗ることに対応しますが、インターネットはその上で様々なサービスが行われるため、道路に対応させるのが自然です。道路の整備であるとすれば、インターネットは自治体等が税金の一部を使って整備すべきとも考えられます。特に、相互接続点の設置、運用は、個別のサービスから非常に遠く見えにくい部分であり、意図的かつ計画的に整備しなければいつまでも整備されない危険性があります。岡山県などいくつかの地方自治体は、積極的に地域IXの試行的な運用を始めています。しかし、急激に変化するインターネットの世界で、その運用を任された第3セクター等が、状況の変化に柔軟かつ適切に対処することは困難な点が多く、さらに地方財政が非常に厳しい現在、新たな財政負担は極めて困難な状況にあります。

 特定非営利活動法人(NPO法人)は、このような状況で第3セクター等に替わる枠組みとしても注目されています。すなわち、自治体が抱え込んだ重過ぎる荷をNPOで分担するという考え方です。地方における新しい公共事業推進のあり方としてもCSIの試みは注目されており、現在他の幾つかの地域でも地域IXなどのインターネット相互接続事業を主な目的としてNPO法人化が検討されています。

4 諸費用について

 1993年に任意団体として協議会が設立して以来、協議会は会員組織および運営委員を中心とした個人のボランティアにより運営されてきました。インターネット接続についてはNOCまでの回線および接続装置は各接続組織の負担、NOC設備や協議会全体で必要なバックボーン回線費用(一部)等はNOC設置組織の負担、日本国内および海外への接続については学術系組織に限りWIDEおよびSINETの協力を求めるなどしてきました。また、接続の維持管理はNOC技術担当者による献身的な支援に支えられてきました。しかし、インターネットがインフラとなってきた現在、以下のような問題を抱えています。

  • 組織間接続の維持管理をボランティアに頼ること
  • NOCまでの接続は各組織の契約ではあるが、責任が不明確になりがちである
  • 各組織のインターネット接続性がNOC設置大学の計画停電等に影響を受ける
  • 商用ISPによる国内および海外接続も必要である

これらに対するひとつの解がNPO法人の設立であり、2000年4月より運用を開始する新しいネットワーク接続形態だったわけです。

 新しい協議会では、接続組織(非営利組織の団体正会員に限る)とPoP間の通信回線契約、PoP設置場所の確保、PoP接続機器の準備、商用ISPによる国内および海外接続性の確保、基本的な接続維持管理(外注)等をCSIとして行います。そのために必要な経費は、接続料、設備利用料などとして接続組織に負担して頂きます。今回新たに開始するIX事業については、IX接続組織(団体正会員に限る)からPoPまでの通信回線はIX接続組織の責任で敷設して頂き、IX設置場所の確保、IX接続機器の準備等をCSIとして行います。そのために必要な経費は、設備利用料などとしてIX接続組織にご負担頂きます。また、会員(個人正会員、団体正会員、賛助会員)の会費は、すでに述べたインターネット接続事業、研究研修事業などを支援するため必要なCSIの管理運営費用として使用されます。

 以上のようにCSIはインターネット接続事業についてこれまでと異なる方針を打ち出し、より安定したインターネット接続、相互接続点の運用をめざします。しかし、その基本はこれまでどおりCSIの趣旨に賛同した、技術的知識を持つボランティアを中心とした非営利組織です。したがって、商用ISPのように技術者を雇用する等の経費をかけないにもかかわらず、最高水準の技術支援がボランティアにより提供されます。また、インターネット接続事業と研究研修事業は密接な関連を持ち、協議会全体として極めて公益性の高いインターネット普及啓発活動が展開できます。

5 むすび

 CSIはその活動意義を理解して頂き、ご協力頂ける会員(個人正会員、団体正会員、賛助会員)の皆様によって支えられています。また、会員でない個人の方でもボランティアとしてお手伝い頂くことができるようになっています。

 CSIの活動にご賛同いただける幅広い皆様方の参加及びご支援ご協力を切にお願いいたします。


特定非営利活動法人
中国・四国インターネット協議会 (CSI) 事務局
URL: http://www.csi.ad.jp/  

PDF版


Copyright (C) Chugoku-Shikoku Internet Council. All Rights Reserved.