頑張れる! 広島!!

慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特別研究講師
アジア工科大学院 intERLab 客員講師

土本康生  

 私が進学のため広島を離れてから、早17年。仕事を理由にタイに住み始めてから3年が経つ。 広島を離れて長いが、サンフレッチェ広島や広島カープの試合結果が気になるそんな元広島人である。 この度、IT産業育成のポイントを話す機会をCSIの皆様から頂いた。ビジネスは門外漢であるものの、 長きにわたってインターネット技術の発展に関わってきた者として、気がついていることを お伝えできればと思い、また私を育ててくれた広島に少しでも恩返しができればと思いお受けした。
 私が話したポイントは単純に一つ。広島には既存の産業があり、 それを活かすことが大切だと言うこと。
 私は常々、情報技術産業を考えるにあたり、情報技術そのものの産業と情報技術を使った産業に わけて考えるべきだと感じている。情報技術そのものの産業とは、プログラム作成や情報技術を 利用した環境を整える産業のことを指す。有名な会社としてジャストシステム株式会社や 株式会社NTTデータが挙げられる。このような産業では、人が財産であり、その育成には時間がかかる。 この情報技術そのものの産業育成が大切であることは言うまでもないが、我々の身の回りには、 情報技術を使った産業のヒントが転がっている。
 このような情報技術を使った企業の活動をよく見てみると、情報技術の発展により根本的に 新しく発明されたサービスはあまりなく、その多くは我々の日常生活の焼き直し(デジタル化)だったり、 今まで時間や距離が障壁になってできなかったことが、情報技術により障壁が取り払われ、 可能になっただけであることに気づく。例えば、楽天株式会社は、距離が障壁になってお互いに 知り合えなかった売り手と買い手を引き合わせただけであり、商売の本質は何も変わっていない。 Googleが掲げているすべての情報をデジタル情報にするという目標も、言い換えればすべての 人間活動をデジタル情報として取り扱うと言っているに過ぎない。そのような情報技術を使った 産業が世間ではIT業界と呼ばれて注目されているのだ。実は、そこに人間の活動がある、 そこに取引する商品がある、これが華やかに見える情報技術を使った産業を本質的に支えているのだ。 我々の日常の活動、従来の産業があってこその情報技術、多くの人がこの点に気づいていない。
 タイを始めとした東南アジア諸国や中国、韓国では、日本に追いつけ追い越せと産業育成に力を注いでいる。 多くの工場が建ち、様々な製品が日々作られ始めてきている。そのような光景を間近に見ると、 活き活きとした国の発展を感じさせられる。私たちは、価値のある物や情報を作り出せなければ、 情報技術はその意味を持たないことを再確認するべきだ。情報技術が何かを生み出すという幻想から脱却し、 私たちの生活や産業そのものを見直し、情報技術をどう適用できるのか、いかに活用するのかを 考えてみる必要があるのではないだろうか。それは我々の身の回りに転がっていることなのだ。 広島には世界に誇る技術があり、世界が注目する製品がある。今一度、その産業に光を当て 情報技術の役立て方を考える必要があるのかもしれない。広島には世界がうらやむ産業があるのだ。


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