学校における緊急連絡メール実験について
CSI個人会員 平井ひづる(広島市立井口明神小学校)
1.はじめに
小学生の母親は、携帯電話の利用が多い。平成15年度,自分の勤務する小学校では,学校のホームページの中でも家族のスケジュールと大きく関わってくる学校の行事予定や,学校の電話番号が外出先からでも携帯電話を使って見られるように,携帯版のページを用意したところ、かなりの頻度でアクセスがあった。
一方、隣接校区での不審者出没や強盗事件の発生などで,児童を集団下校させ外出を控えるように指導することが昨年度も何度かあった。その際下校時に保護者不在の家庭では、学級毎に作成してある緊急連絡網は自宅の固定電話なので、連絡が入るのは夜になる。児童に持ち帰らせる集団下校の理由を通知する文書を目にするのも帰宅後になる。従って,児童下校後の対応が十分に出来ない様子だった。
そこで,緊急時の連絡を,従来の紙による「お知らせ」や,自宅の固定電話による緊急連絡網の利用に加えて,携帯メールによる連絡も行えば外出中の保護者にも情報が迅速に伝わり便利ではないかと考えた。平成16年度,PTA総会で緊急メールを携帯電話で受け取るためのアドレス登録を保護者に呼びかけ,メールによる緊急連絡体制を整えようと試みた。
2. 実施にあたっての問題点
(1)煩瑣な登録作業
手書きでアドレスを書いた紙の提出を受けて、入力するのは煩瑣であるということは容易に予想できたので,学校のメールアドレス宛てに登録希望のメールを携帯電話から送って、申し込む方法をとった。
しかし,教職員が連絡用に使っているアドレスと同じアドレスを受付アドレスにしてしまったため,様々なメールに登録希望メールが混ざってしまい、メールの振り分けに手間取った。さらに、申請メールの書式には学年・学級・児童名が必要と通知したが,不備なものもあり本人確認が煩瑣になった。
(2)一括送信が困難
全あて先に同報するテストメールを送ってみたところ,送信途中でエラーになって送信自体が止まったり,送信したものの配信されないものがあったりして,登録アドレスすべてに送信することは失敗に終わった。個別対応をするにはあまりに量が多すぎて、本来の即時通知というねらいにはそぐわない。
(3)問い合わせへの対応
テストメールが届かないという問い合わせが学級担任へあったり,テストメールが届かなかったのでもう一度登録して欲しいとメールで何度も申し込む人がいたりして,これらの問い合わせに対応しなくてはならなくなった。
(4)次年度以降への引継ぎの問題
メールアドレスをメールソフトのアドレス帳に登録しただけなので,来年度の進級時には現在の登録アドレスを新学級対応に手作業で書き換えることになるかもしれない。そうなると,また作業に多くの時間が取られてしまう。
(5)緊急メールの発信責任者
今年度の登録作業を行っているのは教務部の担当教諭である。しかし、今年度,管理職が台風接近による臨時休校の判断を行ったとき,早朝であったため,担当者が出勤していなかった。また,勤務時間内であっても,授業がある教諭は緊急時にメール送信作業が出来ない可能性が高いので発信者となるのは難しい。
3.改善方法
(1)登録作業の負担を出来る限り軽くする。たとえば、登録希望者が自分で仮登録し,保護者であることを確認できれば自動的に本登録ができるとよい。
(2)確実に一括送信できる。
(3)誰でも簡単に送信できる。
(4)学校からだけではなく,緊急時には自宅からでも送信できる。
4.実証実験
CSIの協力を得て,平成17年1月から3月まで,開封確認機能付きメール送信システムを利用して連絡メールの送信を行った。
(1) 実験システムについて
サービスを提供する会社のサーバに保護者のアドレスを登録し,専用のwebページまたはメールソフトを使って専用のアドレス宛にメールを送信することにより,登録アドレスに連絡メールを一斉送信し,保護者がメールを開封したか,メールを確認したかをwebページやメールによって確認することができる。初期登録は,二学期末までの時点でメール受信希望として届け出られていた保護者のアドレスは一括登録した。その後,全児童にIDとパスワードを設定し,利用者自身の手で登録や内容の変更が出来るようになった。
(2)利用方法
緊急連絡がない場合でも,送信テストと練習を兼ねて月に一度,携帯版のHP更新を知らせるメールを全登録者に一斉送信した。また,児童の体調不良による早退で個別に連絡を取る場合にも,保護者がアドレスを登録している場合にはメールによる連絡ができるよう,登録者の名簿を保健室に置いて利用した。
PTA役員にも利用方法を知らせ,パソコン同好会や執行部の連絡で利用した。
5.成果と課題
(1) 利用して便利だった点
○ 確実に一斉送信ができる
○ エラーメールや未開封メールが簡単に確認できる
○ 登校後にインフルエンザによる欠席者数が多いため下校時刻が早まる場合の保護者への連絡を確実に行おうとしたとき,固定電話による学級連絡網を利用するよりも,携帯メールによる連絡を一斉送信し,未開封者に個別に学校から電話連絡を行う方が早くて確実。
○ 教室にパソコンがあれば,1階に下りなくても保護者に連絡メールを送ることが出来る
○ 電話は通話料金がかかるが,メール送信には特別な料金はかからない
(2) 問題点
○ 全保護者へIDとパスワードを知らせるための手紙印刷・配付作業は予想以上に煩瑣であった。
○ 保護者自身が登録した場合,学校側が把握できない。登録人数を常時監視し,人数が増えた場合に過去の登録者と照らし合わせて,誰が登録を行ったかを調べる作業が必要。
○ 学級毎,長子次子別にグループを作成する必要があり,新規登録者が判明するたびにグループにも改めて登録する必要がある。
○ 全長子にメールを一斉送信した場合,未開封者が50音順の表示になり,クラス毎には表示されないので,確実な連絡が必要な場合には電話連絡が誰に必要かがわかりにくい。
○ 保護者全員が携帯電話を利用しているわけではなく,導入に当たっては学校側で教材費のような形で利用費を集金することは難しい。
○ 緊急時には,授業者は児童から離れられないため,授業を担当していない者がメールの送信を行う必要がある。校務の中で担当者を明確にし,担当者はメール送信作業の手順を知っておく必要がある。
(3) 今後の展望
今回の実験に当たって,携帯メールに対する保護者の考えをPTAが中心となってアンケート調査した。回収率が高く,保護者の関心の高さがうかがえたため,携帯メールを使った連絡システムに関する情報をPTAで収集した。
PTA連絡網に関するアンケートの集計結果
◎ 回答率 65.7% (長子数321名に対し211名が回答)
◎ 現在、学校メールを受信している方のご意見
・ このままでよいと思います。(16件)
・ 外出中や仕事中、一斉下校や保護者が学校へ迎えに行かなくてはならない場合など電話連絡が受けられない時メールだと安心。(7件)
・ 電波の悪い所や仕事中などで見る事が出来ない場合、あるいはメールに気づかない場合、不安です。(2件)
・ 行事予定なども送信して頂き嬉しく思います。(2件)
・ 行事予定は必要ないと思います。
・ アドレスの管理をきちんとしていれば良いと思います。
・ 開封機能付メール配信システムの意味が分かりません。
・ 開封機能付だと手間がかかる。
・ 文章は、受信字数制限があるので簡潔にお願いしたい。
・ 台風などで、早く帰宅させる事があった時に、「今から帰宅させます」などメールがあったら良かったと思いました。
◎ 現在、学校メールを受信していない方のご意見
・ 携帯電話を持っていない。携帯メールをしていない。不慣れなため。(21件)
・ 学校メールを知らなかった、申し込み忘れ。アドレスの変更予定があった為、申し込みをしなかった。(9件)
・ プリントが出されていることや在宅のため、学校メールを必要としない。(8件)
・ アドレス等情報流出や迷惑メール等の不安。(5件)
・ 申し込みが面倒(5件)
・ メールを確認する時間がない。(4件)
・ 登録できませんでした。(2件)
・ 必要と思いませんでしたが、時代の流れなので受信しても良いと思います。(2件)
◎ 連絡網の流れについてのご意見
・ 緊急事態の場合、早急に確実に伝達する事が大切なので、電話とメールを両方に流す。(7件)
・ メールの方とメールを利用していない方は連絡網で別々に流す。(2件)
・ 従来通りの場合、携帯電話に連絡可能であればすると良い。(2件)
・ メール登録をしていても電話連絡を選択できるように柔軟に対応してほしい。
・ メール受信確認できない方には電話連絡をして確実にする。
◎ メール連絡全体に関するご意見
・ 電話連絡による大変さを考えれば、メールによる一斉送信は効果的です。また、事故、事件、災害等に有効なので早急に整備して頂きたいと思います。(12件)
・ 携帯電話を必要としない人もいるので、注意を払ってほしい。(10件)
・ 受信確認できない方への連絡方法を徹底する。(5件)
・ アドレス等情報管理が確実とはいえない。(3件)
・ 携帯の機種や受信状態によりメールは確実とは言えない。緊急性であればメールは難しい。(2件)
・ メールで連絡不能の場合、個々に電話連絡をするのであれば、先生方の負担になる。
・ 役員になられた方が無理のない方法が一番だと思います。
・ 電話連絡は緊急性が高いものにしてほしい。
・ 以前のメールと現在のメールの利点と欠点は何ですか。
・ 現在受信されている方の中で、有効と感じておられる方が多いようであれば、利用しようと思う。
平成17年度からは,より安価で使いやすいと思われるシステムのテスト運用を開始し,5月のPTA総会で本格導入について保護者の意見を直接聞いてみることになった。実験中,教職員の登録率よりも保護者の登録率は格段に高かった。若い保護者ほど,携帯メールは身近な存在なので,今後このような連絡システムに対するニーズは高まるだろう。