セキュリティ・ポリシーとコミュニケーション
広島大学 地域連携センター 助教授 匹田 篤
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インターネットの商用利用が開始されて10年が過ぎ、社会における情報セキュリティについての理解も徐々に高まってきています。しかし実際には、インターネットはなんとなく怖いというイメージだけを持っていたり、誰かに怒られるから決められた手順に渋々従っているような状況も少なくありません。
そうこうしている間にも、セキュリティの裏をついた不正の手口は日々、巧妙なものとなっています。結果として対策の現実に直面する一部の人だけが、焦るあまり、規則や手順を押しつけてしまう場面も見られます。
情報セキュリティは、技術の導入と共に、セキュリティの方針の表明であるセキュリティ・ポリシーも多くの組織で策定されています。ポリシーとは、いわば技術の使い方です。これを決めれば技術は実用的な手段となり、それを皆で実行するだけでいいということになります。
この「決めたことを組織全体で実行する」というところが、セキュリティのネックとなっているケースが多いようです。セキュリティの技術は学ぶことができます。セキュリティ・ポリシーは外部の力を借りてでも策定することができます。しかし、実行するためには組織全員がまとまらないといけません。これはコミュニケーションの問題なのです。
セキュリティを円滑にするもの?コミュニケーション
セキュリティ・ポリシーの体裁は組織の規程と似ています。規程やルールは、守るのが当たり前なのですが、その裏には「当たり前のことを納得する」というステップが不可欠です。組織の人々に、当たり前であることを納得してもらわなければなりません。インターネットの仕組みや技術は、目に見えにくいこともありなかなか理解されにくいものです。だからこそ、当たり前のことを納得してもらうことに、もっと呼びかけの工夫をし、力を注ぐ必要があります。
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納得していない人に対しては、「決定事項は守ること」「手順通りに作業を行うこと」という言葉があまり通用しません。日常生活において、町中でもメディアでも、このような呼びかけは数多くあります。どうやら我々は一方的な呼びかけに対して、無頓着になりつつあるようです。無頓着になってしまった人々を振り向かせるためには、広い意味でのユーモアが求められていると考えています。
コミュニケーションとは、作られた仕組みを一方的に押しつけることではありません。仕組みを理解し、共に手順を守っていくためのプロセスです。そのためにも一方的ではない呼びかけを行い、その結果として人々に連鎖していくコミュニケーションが大切なのです。
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広島大学で開講している講義 「メディア活用研究」の一場面 |
センスは学べる
コミュニケーションの能力は、センスや素質で片づけられてしまいがちです。センスや素質は天性のもので、自分には無関係だと逃げてしまう人も多いのですが、コミュニケーションもデザインも、大半の部分は技術や知識です。デザイナーや芸術を学んだ人は、そういう技術や知識を学んでいるのです。我々もそれを学ぶことができます。その最初のステップは、知識を得るとともに、良いものを観て真似をするということです。
デジタルカメラの仕組みを知っていてもよい写真が撮れるわけではありません。我々は新しい技術だけではなく、新しい表現や新しいコミュニケーションについても学んでいく必要があります。技術とともに感性を磨くことで、ネットワーク社会はよりよいものになっていくことでしょう。
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