ネットワーク構築体験で実践的な教育を

佐賀大学 理工学部知能情報システム学科 渡辺 健次

 ヴャーチャルとかサイバーという言葉で形容されることが多いインターネットですが、実際には人と人を結ぶ道具であり、背後に必ず人が存在します。電子メールを交わす相手は人ですし、ホームページを作成しているのも人です。そして、インターネットを構築して、運営しているのも人です。

 ネットワークの活用が盛んな土地は、必ずその中心にキーとなる人が居て、活動を陰に陽に支えています。地域の一番の財産は人であり、地域を担う人材の育成が、大学には期待されているはずです。

 そのような意識を持ちながら、情報系の学科で「情報ネットワーク」という名の講義を担当するようになって、数年が経ちました。この数年間のインターネットを巡る変化はなかなか劇的で、つい最近まで ISDN で喜んでいたのに、あっという間に常時接続、ブロードバンドになってしまいました。実際に学生と話をしていると、自宅がADSLやCATVで繋がっている、という者が少なくありません。

 ところが、毎年講義をするたびに、インターネットの技術的なことを知らずに使っている学生が多いことに、驚かされます。毎年、講義の最大の山場はネットワークアドレスの算出で、IP addressとnetmaskの論理積の計算に四苦八苦です。言葉としてIP addressやnetmaskは知っていても、講義を受けるまでは、数字の意味までは、なかなか考えていないようです。インターネットも、着々とブラックボックス化しているんだな、と感じます。

 日本でインターネットが盛んになってから、十数年が過ぎました。80年代末から 90年代の初頭にかけて、主に大学でインターネットを構築してきた世代が、今に至るまでずっと中心になっている地域が多くあります。

 考えてみるに、そのような人たちの強みは、(1)様々な知識を経験から身につけてきたこと、(2)その結果「インターネットは自分(達) で創るものだ」という意識を持っている、という 2 点ではないかと思います。

 ところが、これだけインターネットが発展してしまうと、お金を出せば、それなりに整備された商品としてのインターネット環境が、簡単に手に入ってしまいます。しかしこれでは、インターネット環境を構築するという、すばらしく有意義な学習をすることができません。

 3年前に佐賀大に移って(戻って)みると、目の前にJGN (Japan Gigabit Network) がありました。そして、とてもやる気のある学生が数名、研究室に配属になりました。JGNなどの新しい環境を活用することを通して、将来、もしかしたら地域の核となる者達に、自分達が使うネットワークを、実際に自分達で構築する体験を積ませることができ、実践的な教育が行えそうです。

 そこで、卒論・修論のテーマとは別に、九州ギガポッププロジェクトや日食中継、慶應大学との遠隔講義などに取り組むことで、ネットワーク構築を通した学習を、意識的に仕掛けてみました。JGNの活用以外にも、文科系の先生のサーバの構築を行ったりと、盛り沢山です。

 そのような流れの中で、MAMEdeGansuを始めとした、CSIの活動にご一緒できることになりました。数回の講演会の中継を通して、JGNの設定、ルーティングやmpeg2ts など、様々な知識と技術とノウハウを、たっぷりと吸収したようです。

 この春、その中から修士課程を修了した学生2名が、地元・佐賀の企業に就職しました。勉強の成果は、これから社会で発揮されるでしょう。とても楽しみです。

 先日、広島市大の前田香織先生といろいろ話をしている中で、「広島市大の学生のサーバを佐賀大に、佐賀大の学生のサーバを広島市大に置くと、教育的かも」という話で盛り上がりました。JGNを使えば、ネットワーク的には十分可能な感じもします。

 佐賀では、昨年度から、県域のIPv6ネットワークの構築を進めています。第8層より上位層については我々の役目ですが、第7 層以下については、積極的に学生に体験させることを、仕掛けるつもりです。

 CSI の活動とも旨く連携できると、迫力が出ますね。今後ともよろしくお願いいたします。

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