CSI ネットワークマスター 虎の穴 市民公開講座

〜携帯とネットワークの美味しい関係〜

第1部

 演目

「今どきのケータイの概要と基礎知識を解説」

 講師

法林 岳之 氏
フリーランスライター

第2部

 演目

「開発メーカーの視点で、大まかな歴史と技術の進歩、端末の進化などについて解説」

 講師

山本 信介 氏
シャープ株式会社 通信システム事業本部 パーソナル通信第3事業部 副事業部長

開催を終えて 〜レポート&開催風景〜

12月15日(土)に、「CSI ネットワークマスター 虎の穴 第3回市民公開講座」が広島市まちづくり市民交流プラザにて開催されました。今回も、CSI会員・学校関係者・一般企業より40名を超える多くの皆様にご参加いただきました。

当日は、中国・四国インターネット協議会副理事を務める広島大学教授相原玲二氏の開会の挨拶より始まり、その中で、自身のケータイ契約は95年12月から、ちょうど神戸にてIP Meetingが開かれた頃であり、100校プロジェクトが大変話題になったとお話頂きました。当時ダイヤルアップの接続が一般的だった中、日本の小中学校100校をインターネットで結び、全国の学校の情報交換、共同学習を実験するプロジェクトでしたが、FTTH、専用線が当たり前となっている現在、インターネットとケータイが結びつく新しい時代の可能性について期待したいと述べられました。

相原副理事

第1部 『今どきのケータイの概要と基礎知識を解説』

フリーランスライター法林 岳之様を講師にお迎えし、「今どきのケータイの概要と基礎知識を解説」と題して、ケータイの基礎知識を紹介しながら、業界各社の動向をご解説いただきました。

法林氏

はじめに、最近のケータイを使ってなにが可能か簡単にご紹介いただきました。従来の通話、インターネット、メール、カメラ、音楽に加え、二次元コード、電子マネー、ゲーム、ワンセグなどの新機能についてお話いただき、機能がこれだけ進化して多様化されている端末について「わからない」「使いきれない」という方が非常に多いと述べられました。

続いて、NTTドコモ、au、SoftBankにデータ通信のみのイーモバイルとPHSを中心に事業を展開しているウイルコムを加え、それぞれの事業者の特徴、通信方式と簡単な事業経緯をご紹介いただきました。競争激化と設備投資の規模を主な理由に、既存の事業者は今後も中心となるであろう。また、契約数1億を突破した国内市場について「頭打ち市場」と言われているが、自動販売機、カーナビ、セキュリティー製品など、人間以外もケータイを持つ時代になってきていると述べられました。

この1年のひとつの大きな話題となったMNP(番号ポータビリティ→同じ番号のまま、他社へ移動可能)も、開始当初「市場が大きく動くことはないだろう」と予想された通り、実際に利用されたのはわずか2-3%だったとのこと。auの一人勝ちとなり(約124万件プラス)、SoftBankは半年苦戦した後、少しずつ増えてきているそうです。最近登場した、2年契約プランがこのテーマの対策になるだろうと述べられました。

市場動向に続き、「今どき」の端末デザインをご紹介頂きました。

ボディ形状
ワンセグの利用増加により横向きのボディ形状が注目されている
サイズ
20mm以下の薄型モデルが主流になっている
デザイン
auのMark Newson, INFOBARなど有名なデザイナーとのコラボレーション、また海外ブランド(D+G、プラダなど)とのコラボレーションが市場に登場してきている
ボディ素材
質感向上を目的に金属、木目パネルも使用されている
カラーバリエーション
PANTONE20色など個性的なカラーバリエーションが増えている
 

続いて、「今どき」の端末ハードウエアと機能、

カメラ
2年前のデジタルカメラ並みの5M ピクセル、3倍光学ズームが登場
ディスプレイの商品融合と同様カメラも搭載される(ソニーCS Cybershotケータイ2008年冬予定)
ディスプレイ
3インチフルワイドVGA液晶とWoooケータイ搭載の薄型有機ELディスプレイも登場
音楽再生
音楽販売は1億ダウンロードを達成し、多くの学生の初音楽体験は「着うた」であるという。音楽再生の市場拡大によりスピーカーの質も問われる。
フルブラウザー
PC 向けのサイト閲覧は横スクロールせず見れるようになり、コンテンツのあり方が変わってきている
ドキュメントビューア
Word, Excelなどの文章閲覧、メール添付対応、ASPサービスも提供されている
 

最後に、「今どき」の料金体系とサービス

料金
販売奨励金の見直し、パケット通信料定額制、音声通話定額制など、それぞれの事業者の料金体系は、MNP、技術の進化またはネットワークバックボーンの運用コストとユーザー数など多数の要因により複雑化されている
おサイフケータイ
従来の電子マネー・交通系サービスに加え、iDなどのクレジットカードサービスが普及している。また、リーダーディバイスは必要とされるが、クーポン券サービスにビジネスへの期待が寄せられている。
GPSサービス
ナビゲーション、位置確認、また位置情報に結び付いたコンテンツ提供サービスも増えている。

 

法林様より端末性能の向上がもたらすサービスの進化についてご講演を頂きました。業界全体が抱える今後の課題として、わからない、使いきれない機能の改善、こどもから中高齢の利用者まで、世代ごとに操作が異なるなどケータイ版のデジタルデバイドがないよう教育するとともに、正しい情報を伝えるメディアが重要であると述べられました。

第2部 『開発メーカーの視点で、大まかな歴史と技術の進歩、端末の進化などについて解説』

第2部では、シャープ株式会社の山本 信介様より「開発メーカーの視点で、大まかな歴史と技術の進歩、端末の進化について解説」と題し、シャープの携帯電話事業の経緯と今後の展望についてご解説いただきました。

山本氏

はじめに、シャープ創業以来95年について簡単な紹介をいただきました。シャープはもともと電機メーカーではなく、1912年、創業者の早川 徳次氏のベルトバックルの考案を最初に、発明を中心に展開された事業だったそうです。シャープペンシルなどを発明した後、日本の流れに乗り、電卓、ラジオ、テレビ、家電、計算機など、日本初、世界初の商品を続々と作り出したとご紹介いただきました。

東広島の事業所を中心とした(シャープ製端末の識別子SHはS→SHARP、H→HIROSHIMAと知っていましたか!?)現在の国内製造の拠点に続き、シャープの移動体通信事業の経緯についてご紹介いただきました。95年には国内の携帯電市場に参入、国内メーカーとしては最後のスタートだったそうです。そのため、第一世代(アナログ方式)、第二世代において過去ないメーカーとしては弱い立場でしたが、その後カメラと液晶の中心に大きな進化を遂げ、現在シャープは国内シェアのリーダー(21%、2位は12%)になったそうです。

シャープの携帯端末は、社内の縦(デバイス部門との連携)と横(AV、情報、通信商品部門間の連携)の連携による開発環境を特徴に進化しています。

液晶(2000年初カラー液晶→256色から2007年末3.2インチフルWGVA液晶)
カメラ(2000年末世界初11万画素から2006年末500万画素/光学3倍ズーム)
AQUOSケータイ(通信とAV部門の融合により液晶の技術力と商品スタイルの開発を実現)

上記の事例を交えながら、シャープの「オンリーワン」商品開発構造についてご紹介頂きました。

第2部の後半では、携帯電話とインターネットについての解説を頂きました。契約者数1億件のほとんどはインターネットに繋がる環境のデバイスを持ち、90%程度の契約者に利用されているそうです。文字情報から始まり、カラー画像対応、PC向けwebコンテンツ閲覧まで可能になるなどケータイはどんどん進化しているとの事。講演の中で、携帯電話の通信種類、インターネットサービス接続の仕組みに利用されている技術とアプリケーション、<webプロクシー>の役割とブラウザの高度化技術の概要についてご説明いただき、ケータイコンテンツサービスビジネスのを支える技術の特徴についてもご紹介頂きました。今後展開されるサービスと進歩する技術の一例として、着うた、蓄積型配信サービス、Flashなどは注目されるだろうと述べられました。

最後に、端末のさらなる進化に向けて、メーカーの今後の開発動向の予測についてお話頂きました。メディアはリッチ化されており、現在の35% 程度のワンセグ搭載端末が標準機能化され、ワンセグ端末も薄型化が進み、ディスプレイの大画面化と有機EL搭載端末の進歩により、画質競争がより激しくなるだろう。また、iPhoneの刺激を受けて、ケータイのユーザーインターフェースに注目が集まるだろうと述べられました。

技術進歩のスピードを証明する一例として、2006年5月発売の905SHと2007年11月発売の920SHを比較して頂きました。

  905SH 920SH
重量 140g 123g
薄さ 27mm 18mm
視聴時間 約4時間 約4時間15分
画面サイズ 2.6インチQVGA 3.2インチフルワイドVGA

たった1年間の間のAQUOSケータイのめまぐるしい進化に、参加された方々も大変驚いておられました。

第3部 トークセッション『ケータイのこれから』『会場との質疑応答』

第3部トークセッションは、法林氏、山本氏より、話題のワンセグについての紹介より始まりました。

トークセッション様子

地上デジタル放送の一つのチャンネルが13セグメントに分かれており、そのうち、モバイル機器向けに割り当てられた1セグメントが、ワンセグ放送と呼ばれるそうです。現在市場に出ているケータイ端末の約37%(およそ1,500万台)がワンセグ対応だそうです。 特徴として、

移動中、野外でも使える
アナログに比べて補正の必要が少なく、長時間視聴可能(3-4時間)
データ放送と映像音声を同時に受信可能
録画可能

など、新しいメディアとしてワンセグ用番組制作市場の発展に期待していると述べられました。

最後の質疑応答の時間には、参加者の皆様より様々な質問が寄せられました:

・ケータイ向けのコンテンツフィルタリングについて

こどものケータイ利用が増える一方、携帯事業者のコンテンツフィルタリングポリシーが注目されている。基本はPCのフィルタリング技術と同じエンジンを利用し、フィルタリングの方法は大きく分かれて、公式サイトにしかアクセスできない「ホワイトリスト」と、特定のカテゴリのサイトを排除する「ブラックリスト」の2種類があり、こども向けのフィルタリングではホワイトリストを採用し、公式サイトにしかつながらない。フィルタリングを含めてこどものケータイ利用に関する親と教師への教育が欠けている。

・ケータイとNGNについて

固定網と移動体網の融合について考えると、基本的にネットワークバックボーンの話と言われるが、ケータイ市場を念頭に考えると具体的に見ることができなく、ユーザー生活視点で考える必要があるのではないか。

・Google(Android)について

Googleのオープンソースベース携帯電話開発環境Androidとは、DoCoMo、KDDI、Qualcomm、T-Mobile、Motorolaなど携帯端末メーカーや通信事業者など約30社以上が参加するオープン開発プラットフォーム。Gmail、Google Mapsと組み合わせたアプリ、広告サポートなど、PCネットのようにオープンな世界を携帯電話上にも実現させるのが狙いとのこと。海外では春に製品が市場に出回ると予想されているが、日本は高度化されているため、アプリ、課金などの問題解決により時間がかかると予測されている。

・情報漏出について

移動体端末のビジネス利用において課題とされている情報漏洩防止の現状について、現在ほとんどのサービスが個人向けではあり、遠隔の情報削除サービスなどキャリア側では情報保護を条々にビジネスに展開されている。個人の場合、危機意識の問題が一番大きい。

・RFIDリーダー組み込みの可能性について

RFIDタグの市場規模拡大が予測される2010年に向けて携帯端末へのリーダーの組み込みの可能性について、RFIDを用いた利用シーンとして考えられる行動マーケティング、GPSベースアプリなど、ユーザーの「personal life」に向けた配信型サービス展開は今後非常に注目されるのではないかと考えられる。

講演終了時間になっても参加者の質問は続き、ケータイの今後へ関心を窺わせる半日の市民講座が終わりました。

会場風景

今回の市民公開講座プログラムには[jus研究会JAPAN TOUR 2007]の特別協力を頂きました。また、「IPv6 Rally! 〜使ってみようIPv6〜」のイベントの一環として、IPv6 Rally! 参加者限定で今回の市民公開講座の模様をIPv6を利用しリアルタイムに映像配信を行いました。開催にご協力をいただき誠にありがとうございました。

「CSI ネットワークマスター 虎の穴」は、特的非営利活動法人中国・四国インターネット協議会(所在地:広島市中区上八丁堀、理事長:椿康和以下、CSI)がインターネット技術に関する人材育成や地域活性化を目的として開催している定期セミナーです。CSIは、中国・四国地域における情報通信基盤の発展に貢献することを目指して普及・啓蒙活動を行っています。

次回のCSI ネットワークマスター 虎の穴 は技術者向け定期セミナーとして4月に開催する予定です。参加費は無料です。詳細が決まり次第本サイト上でお知らせします。多くの皆様のご参加をお待ちしています。

お問い合わせ先

CSI事務局 セミナー担当:宮本

セミナー専用Tel:090-7772-5114 (受付時間 平日10:00-18:00)
e-mail:seminar-sec[at]csi.ad.jp

主催:特定非営利活動法人 中国・四国インターネット協議会(CSI)