CSI ネットワークマスター 虎の穴 市民公開講座

〜IPモビリティー:技術概要と標準化動向〜

講演者

湧川 隆次 氏
株式会社トヨタIT開発センター シニアリサーチャ
慶應義塾大学政策メディア研究科 特別専任講師

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開催を終えて 〜レポート&開催風景〜

2008年4月17日(木)、「CSIネットワークマスター 虎の穴 市民公開講座」を広島市まちづくり市民交流プラザにて開催しました。本講座では、インターネット技術を用いた移動体通信を実現するIPモビリティー技術に関して、技術概要と標準化動向をトヨタIT開発センター湧川隆次様を講演を頂き、約60名の方ににご参加頂きました。

冒頭でCSI副理事長の相原玲二氏より、ご挨拶と共に、これまでの経緯や開催目的に加え、2005年から始めた本講座が2008年度で終了すること、今回が広島では最後であることについて説明があり、続いて、NTT西日本 松川昌義氏より、地方で最新のネットワーク技術動向を確認できる機会を提供することにより、本講座がいかに地方に貢献してきたか簡単に説明をして頂きました。

相原氏 松川氏

その後、株式会社トヨタIT開発センター湧川隆次様を講師にお迎えし、第4回CSIネットワークマスター 虎の穴 市民公開講座「IPモビリティ: 技術概要と標準化動向」の開演。三部構成でインターネット技術を用いた移動体通信に関してご講演頂きました。

【セミナー第1部】

・インターネットにおける移動体通信とは?

・IETFの解説とモビリティ関連活動の概説

はじめに、インターネットの役割と理念に関してご紹介頂き、IPの意義、インターネット技術の本質的な特徴、一つのDeploymentされていない技術として移動体通信技術があることを詳しくご説明頂きました。

インターネットはサービス毎にネットワークを作るのではなく、単一のバックボーンとして共有・利用できるネットワークであること。特に電話網とは異なり、ネットワークのインテリジェンスを高めるのではなく、なるべくネットワークは何もせず、エンドエンドの端末がインテリジェンスを持つ、というインターネットの特徴をご説明頂きました。

ネットワークの共有によって、キャリアの負担は独自インターネットの構築を行った時にに比べて非常に低下すると指摘されました。

涌川氏

続いてモバイルインターネットにおける技術のオーバービューについてお話を頂きました。

モビリティ技術: MobileIP, Proxy Mobile IP, NEMO, MANET
無線アクセス: IEEE802.11, 802.16e(WiMAX), 802.20
携帯電話網: W-CDMA (HSDPA), CDMA2000(1xEvDo)
規模性: IPv6の導入

将来、次世代インターネットの特徴である上のようなインターネット技術、通信技術の普及と共に、約8億台の自動車、15億台の携帯電話が、それぞれお互いに接続されるようになると言われています。その時、モバイル人口比率は大きく高まり、インターネットをコアにした無線技術を導入することで、インターネット全体が更なる発展を遂げるだろうという見解を述べられました。

その後、標準化、IP Mobilityとは。と大変興味深い内容の講演が続きました。

標準化では若干話題を変えて、標準化の必要性と標準化組織について紹介されました。特にIETF、W3Cは市場標準(De Facto Standard)であり、提案したら動かし、それが良ければ実際に使われる、という特徴を説明されました。その後、IETF、ITU、3GPP、3GPP2、WiMAX フォーラムなどの標準化組織に関して、特にISOとIETFの相違点、IETF関連組織の構造、標準化プロセスに関してご説明頂きました。

IP Mobilityに関して、元々IPは移動体を考慮しておらず、後から加わったDHCP技術により、移動する度にそのネットワーク毎にID (IPアドレス)が変わってしまう点が本質的な問題点であることを指摘されました。

最後にIP Mobilityに関わるIETFのワーキンググループの詳細と現状を紹介されました。

【セミナー第2部】

・Mobile IP

・Proxy Mobile IP

・Network Mobility (NEMO)

・IPv4サポートのためのDual Stack拡張

第二部では、詳しくIPモビリティ技術のプロトコルに関してご説明頂きました。

Mobile IP: RFC3775

移動ノードがHome Agentに対して、移動先のIPアドレスを含むBinding Updateメッセージを送ることで、Home Agentは移動ノード宛に来たパケットを移動ノードに送る技術です。CMIP(Client MIP)とも呼ばれ、端末が移動を検出します。
三角ルーティング削除による経路最適化やなりすまし防止の仕組みを持ち合わせています。

Network Mobility (NEMO): RFC3963

モバイルノードでなく、モバイルルータであり、ネットワーク全体が移動する場合をサポートします。Binding Updateメッセージ内のアドレスを、ネットワークを表すアドレスプリフィックスにし、モバイルルータがBUを送信します。既にHome Agentがモバイルルータがprefix情報を知っているので、モバイルルータであることを示す情報だけ入れて送ることができます。

Proxy Mobile IP (PMIPv6): Internet-Draft

ネットワークが移動端末の移動を支援するプロトコルですが、インターネットの理念と反するものでもあります。
MAG (Mobile Access Gateway)がMIPをサポートしていない移動ノードを検出し、LMAに通知することで、ローカルドメイン内の移動をサポートする技術であり、ある特化したネットワーク内だけで運用することが想定されています。

Dual Stack:

Dual Stackにする利点として、アクセスネットワークタイプに非依存でIP Mobilityがサポート可能な事、PMIPv6の場合は、ネットワーク側のサポートだけで対応可能な事、単一のプロトコルでデュアルスタックのホームアドレスを割当可能である事を挙げ、これによって、普及のハードルが下がるのではないかという見解を述べられました。
しかしながら、移動体が普及しない理由として、現状のMobility技術がIPv6をベースにしているという点、アクセスネットワークがIPv6に非対応であること、Dual Stack Mobility Supportの欠如等を挙げられました。

会場風景

【セミナー第3部】

・IPモビリティの普及に向けて

・提案されているシナリオ

・まとめ

第三部は、IPモビリティの普及とそれを実現するシナリオに関して解説され、最後に今後のインターネットの発展に関しての見解を述べられました。

SAE (System Architecture Evolution)

3GPPで規格化されている次世代携帯網のネットワークアーキテクチャであり、Mobile IPを使います。

WiMAX

WiMAXもMobileIPを使うことが前提になっています。地域をサポートするネットワークであり、日本では最近総務省により周波数が割り当てられました。IPベースという点が特徴です。10MHz帯域の地域固定バンドを使い、それぞれの地域だけで運用されています。
ASN (Access Service Network)とCSN (Connectivity Service Network)に綺麗に切り分けられています。

航空業界

飛行機でのIP通信についてMobile IPを採用しており、Boeing, NASA, Verizonが活動中だそうです。
NEMOを使った場合、Mobile Routerが飛行機内にあり、乗客はMobile Nodeにあたります。NEMOの場合は、経路最適化がない為、全ての通信がHomeAgentを通過してしまいます。この時、欧州を飛んでいる飛行機が米国のHome Agentを通るので、遅延が問題になります。Home Agentを世界規模で分散させることが検討されているそうです。

Open Wireless Broadband Platform

WIDEプロジェクトは、インターネットの世界で特に無線に力をいれて取り組んでいるそうです。
3Gの補完ではなく、インターネットで普通に使いたい、また、WiMAXはIPと親和性が高いと言う事から、藤沢市と一緒に、インターネットにWiMaxをつなげる実験を計画しているそうです。地域バンドをWiMAXができるように総務省に働きかけも行っているとの事。
ただ、無線を使ったインターネット上のサービスは今まで出てきていない事から、セルラーに広域を任せないモデルもあるのではないかと言う懸念についても、お話をされました。
また、マルチホーミング等の他技術との連携、ある地域だけに送りたい情報を送れる同報通信、放送型通信等に関してもお話を頂きました。

これからの移動体通信のシナリオ

今後Deploymentが期待されているセンサネットワーク、船同士のネットワークなどが想定されるメッシュネットワークをはじめ、様々な種類の無線ネットワークが存在しますが、こういった、少しずつ異なる様々な無線ネットワークをどのように統一していくのかが、これからのインターネットの課題であるとの見解を述べられました。

今後のインターネットの発展

インターネットはほとんど変化しておらず、新しい通信技術に対してあまり好意的ではありません。
経路数の増大と共にIPv4アドレスの枯渇が2010年には現実のものとなろうとしており、 IPv6の普及、また一方ではBGPの上で更に経路数を減らす方法が無いか検討されているそうです。
今はインターネットは非常に面白い局面に来ているので、ここから新しい技術がどんどん入っていくだろうという見解を述べられました。

また、インターネットは社会の通信基盤になろうとしており、様々な技術はもう標準化されてきています。
これからインターネット技術はデプロイされて使われるようになるが、うまくいかない場合にどううまくいかせるのかが問題になる。
これから5-10年はIPモビリティ技術者にとっては正念場になるだろうと述べられました。

こうして、約3時間に渡る講演が終了しました。
講演終了後、質疑応答の時間が設けられ、参加者から多くの質問がされました。

質疑応答様子

質疑応答の内容は以下の通りです。

Q1 Explicit/Implicit Binding Updateに関して、Home Agentに Prefixテーブルがあれば、Implicitだけでいいのではないか?
A1 必ずしも、Mobile Networkが同じPrefix を持っているとは限らないから、ExplicitからMobile Network側から変更を要求できる。Mobile IPも同様の問題があって、3GPP は、Home Addressは移動ノードの識別には使わずに、NAIという別の名前空間をノード識別子に使っている。
Q2 Dual StackのIPv4のCoAもHome Addressとのマップも決まっているのか?
A2 Global/Privateの場合で、Home AgentがNATするかどうかを決めて対応する。この場合は移動透過性は提供できるが、着信透過性はそのままでは提供できない。
Q3 通常のCMIPとPMIPが混在している場合、ASN-GWがMAGの場合、どういう風にCMIPのパケットを処理するのか?
A3 ASNゲートウェイはMAGとしての動作はしない。Proxy MIPを利用する端末のみに、MAGとしての機能を提供する。
Q4 10億台の携帯がインターネットにつながるのでIPv6/MIPだ というのは分かるが、経路爆発という面では、MIPだと経路数が非常に増えていくのではないのか?
CoAはそのままで動かないが、Home Addressが爆発を助長するのではないか?
A4 その通りだと思う。Home Addressといっても、Home Prefixとして広告する。NDP (Neighbor Discovery Protocol)で/64 が暗黙に言っている。一応増えるだろうが、手前側には/64の複数ネットワーク があるが、上位でアグリゲーションを行う。
Q5 携帯だとしてローミングにどの程度の遅延が求められているのか、どういう対応がされていて、現状遅延がどの程度に収まるか?
A5 そのままだと遅い。コンテキストトランスファーを行うことで、隣のMAGにコンテキストを送ってやって、L2の認証などはスキップできるようになっている。
Q6 IPv4アドレスはアメリカはすごい数持っているけど、彼らは手放す気は無いのか?
A6 アメリカは手放す気は無さそうとうい印象である。

「CSI ネットワークマスター虎の穴」は、特的非営利活動法人中国・四国インターネット協議会(所在地:広島市中区上八丁堀、理事長:椿康和以下、CSI)がインターネット技術に関する人材育成や地域活性化を目的として開催している定期セミナーであり、中国・四国地域における情報通信基盤の発展に貢献することを目指して普及・啓蒙活動を行っています。

広島での開催は今回が最後になりますが、次回CSI ネットワークマスター 虎の穴を6月に高知県で開催する予定です。
参加費は無料です。詳細が決まり次第本サイト上でお知らせします。多くの皆様のご参加をお待ちしています。

お問い合わせ先

CSI事務局 セミナー担当:宮本

セミナー専用Tel:090-7772-5114 (受付時間 平日10:00-18:00)
e-mail:seminar-sec[at]csi.ad.jp

主催:特定非営利活動法人 中国・四国インターネット協議会(CSI)